遅れ馳せながら、音楽 CD に対する「輸入権」導入問題についてあれこれ調べてみたので、クリッピン。まとまってないので、あんまり役には立たないけれど。この問題の概要については、以下の記事を参照のこと。

問題とされていることを簡潔にまとめると、周知の通り邦盤 CD は日本国内では約 3,000 円で売られているものが多いのだけど、著作権者による正式なライセンス契約に基づいて台湾や中国等で販売されている同 CD は現地の物価水準に合わせた値段(上掲の asahi.com の記事によると台湾では 1,300 – 1,400 円、中国では 550 – 850 円)で売られていて、それが逆輸入されると例えば「ドン・キホーテ」とかの量販店等で)のだが、それでは日本国内版が売れなくなって困る、ついては「日本販売禁止レコード」の日本への還流を防止する措置を講じるべしと、こういうわけです。ライセンスと物の流れについては以下の引用を参照のこと。

  1. まず、日本の著作権者は、ライセンサーとして、ライセンシーとなる日本の CD 制作・製作会社と適法に著作権利用ライセンス契約を結ぶ。
  2. 日本の CD 制作・製作会社は、ライセンサーとして、ライセンシーとなる海外の CD 製作会社と、適法に、原盤の複製・頒布についての原盤使用ライセンス契約を結ぶ。
  3. 海外の CD 製作会社は、作った CD を、その国の卸・小売にまわす。
  4. そのいずれかの段階で、その国の輸出業者に CD が横流しされる。
  5. その CD が、日本の輸入業者に適法に輸入され、日本国内のディスカウンター・ワゴンセール・ネット販売などを経て、日本国内に適法に出回る。

[ 「ファースト・セール・ドクトリンの明確な位置づけなくして、レコード輸入権創設なし」笹山登生のオピニオン 32 より]

ちなみに、この流通過程には現在において違法なやりとりはまったくないので、東南アジア圏で問題となっている海賊版に対する防壁を築こうという話とはまた別の問題です(そもそも、海賊版を販売目的で輸入することは著作権を侵害する行為とされる旨著作権法第 113 条第 1 項第 1 号に規定されている)。

というわけで、文化庁において文化審議会著作権分科会法制問題小委員会が設置され「「日本販売禁止レコード」の還流防止措置」問題について議論が行われたわけですが、以下に引用する文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第 4 回)議事要旨を読むと、これがなかなかに面白い(「必死だな」という感じ)。以下の引用の「説明者」とは日本レコード協会常務理事の生野秀年氏、「委員」の詳細は不明。

説明者
現時点の調査では約 70 万枚、CD ライセンス量の約 20% が還流していると推定している。
委員
70 万枚だと、各国でも数十万枚の単位が当該国の流通ルートから日本に流れる部分は何らかの業者に取りまとめられていることになる。そういう場合、レコード会社が調査してどのようなルートで流れているのか、またライセンス契約で流せないように契約上の管理をする方法はないのか。
説明者
資料 4 – 1 の通り、表示、ライセンス量の限定、発売日の調整等を行っているが、その努力にも関わらず、還流の実態があるということである。
委員
ライセンシーが承知していて流していると思われるが、そうであればライセンス契約違反なので、契約解除などで対処できるはず。それができない事情があり、還流の実態があるのなら、立法による解決を図る必要もあるだろう。まず、ライセンス契約上で対処できないということを説明していただきたい。
説明者
ライセンシーが承知して流しているとは思えない。ライセンス契約は信頼関係に基づいて行っており、ライセンシーが悪意を持って日本に流すことがあれば、ライセンサーがそれを見過ごすことはない。ただ、ライセンス契約の運用について、より一層努力していきたいと考えている。
委員
例えば、特許権侵害や著作権侵害では、メーカー等が現地において死ぬ思いで調査をしているという、それだけの努力をしているのか。
委員
単に横流しがあるのでは。
説明者
ライセンシーが横流しをしているという意味か。
委員
何十本、何百本という本数ならともかく、実際、並行輸入するコストを勘案すれば、ライセンシーにかなり近いところで、何千本、何万本単位で横流しがされているはずである。そうであれば、レコード会社は流れをつかめるはずだ。
説明者
横流しは考えられない。一旦市場に商品が流通した場合、どのようにでも商品は調達できるので、その辺りをコントロールすることは非常に難しい。
委員
輸入サイドで、如何に還流を防ぐかということであり、ライセンシーそのものは契約を遵守していると思うが、中間に業者が入るため、そこをコントロールできないため、「輸入権」が必要なのである。

[ 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第 4 回)議事要旨 より]

このような討議の結果、このほど「文化審議会著作権分科会報告書(案)」が公開されたのですが、関係者間の合意が形成された事項として「「日本販売禁止レコード」の還流防止措置」問題についても池田信夫氏が「輸入盤を「非合法化」する著作権法改正」にて指摘する通り、輸入権を創設すると、海外のレコード会社の日本法人が洋盤の輸入を禁止することもできるようになるもんだから、さぁ大変だということになった。現に、先に引用した文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第 4 回)議事要旨では以下に引用する通りの議論が交わされている。

委員
洋盤は従前どおりという話だが、法的にはどのようなテクニックを用いるのか。例えばアメリカで製造されたレコードと、アメリカのレコードが中国で製造されたものとをどように区別するのか。また、区別した場合、国際条約上、問題はないのか。
説明者
制度上は権利付与については内外無差別という形で考えている。権利者が止めたいのであれば、当該地域のみの販売という表示をし、権利行使しない場合は、その表示をしなければよい。但し、洋盤についてはインターナショナル 5 メジャーから、止めるようなことはしないという言質を得ている。
委員
それは単に「止めない」と言っているだけで、止める気になればできるという権利をになるのか。
説明者
基本的には「止めること」は可能ということになる。
委員
つまり、内外無差別にしなければいけないので、法律上は世界中の真正商品を商業レコードに関して止めることができるということになるということか。
説明者
法律上はそうである。ただ、実際の運用では 5 メジャーの協力を得て現行ビジネススキームを維持しようということである。

[ 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第 4 回)議事要旨 より]

具体的に著作権法の条文がどのように改正されるのかってのはちょっとよくわからないのですが、ともあれこの議事に添付されている資料「レコード輸入権に関する関係者との協議の状況等について」の「2.「レコード輸入権」の内容」を見ると、いずれにせよ事は「日本販売禁止レコード」の還流防止措置にとどまらないということになるのです。このことについて、小倉秀夫弁護士は次のように評釈しています。

一国の法律を改正するにあたって、それによって生ずることが予想される「弊害」への対策が、世界中のレコード会社のうちたった 5 社の人間(どの程度の権限を持った人間かも明らかにされていません。)が、何の権限もない社団法人日本レコード協会の人間に対して、そのような制度ができても自分たちは日本国外で正規に流通させているレコードの並行輸入を止めることはしないと言ったと社団法人日本レコード協会の常務理事が言っていたということしかない───こんな馬鹿げた話は滅多にありません。実際に法改正がなされたあと、インターナショナル 5 メジャーが、アメリカなどで流通している安くて質の良い(少なくとも自分が持っている CD プレイヤーで再生できるかどうかユーザー側でびくびくしなくともよい)音楽 CD の並行輸入を禁止すべく、訴訟を提起してきたら、一体誰が責任を取るのでしょうか。

[ Blog – benli @ 11 18, 2003 10:32 「 逆輸入だけが禁止されるのか」 より]

また、公正取引委員会が公開した「レコード輸入権創設に係る公正取引委員会の考え方」という文書も注目に値する。

以下、面倒になってきたのでリンクで済まそう。「譲渡権」「国際消尽」といった法律的な話について調べるのも今後の課題。

「文化審議会著作権分科会報告書(案)」に関する意見
小倉秀夫弁護士によるパブリック・コメント草稿。輸入権の他、貸与権等、知的財産戦略会議での審議及び文化審議会著作権制度部会の報告書についての総合的な意見。
日本弁護士連合会による反対意見

何故に「邦楽」レコードのみ保護され、外国のレコードと差別的に扱うのか合理的理由がない。また、この差別を解消するために「洋楽」の輸入盤も輸入権の対象とするなら、現在でも日本の消費者が享受している国際価格を放棄し、日本の消費者のみ高いレコードを買わされることに帰結する。

平成 11 年の著作権法改正で 26 の 2 が創設され、その 2 項 4 号で国際的消尽が明定された。レコード輸入権は、その後の格別の事情の変化もないのにこの法改正を無視することになるのであって制度としての安定性を害すること著しい。また、レコードのみ例外的扱いをする合理的理由もない。

輸入権創設は、日本の消費者のみ高い代金を払わされるということに帰するのであり、日本の消費者に対する文化の伝播を抑制する結果を招来することになりかねないものである。また、日本の著作物を世界的に普及させ、またそれによって同時に外貨を獲得することにもならない。
世界的標準からも、消費者の立場を一気に弱めるものであり容認できないと言わざるを得ない。

「レコード輸入権」問題について
消費者団体側からの意見。再販制度を前提として輸入権の設定を認めることは、消費者利益を著しく損なう措置であることは明白であり、消費者の立場から絶対に認めることはできません
「ファースト・セール・ドクトリンの明確な位置づけなくして、レコード輸入権創設なし」笹山登生のオピニオン 32
笹山登生氏による、海外における状況を踏まえた上での考察。「輸入権」問題に限らず、「ファースト・セール・ドクトリン(first sale doctrine)」を徹底することを主張する。
ネット音楽とアナルコ・キャピタリズム
本間忠良氏による論考。面白そうだけど、長いので未読…。