金井美恵子『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』を読んだ。小説や映画に関するこの手のエッセイ集の出版は久し振りなのではないかしらん。ともあれ、気になったとこを引用しておこう。
毎日新聞の新聞勧誘員がやってきて、まあ一種の押し売りとしか言いようのないノウハウのあるパフォーマンス ? アマミから、出稼ぎに来ました、オキナワの近くの貧しい島です、奥さん、妻子四人置いて、今月の契約数が達成できないと、クビです、奥さん、ビール券五枚、洗剤一箱、タオル三枚、差し上げます。六ヶ月分、それでアマミの妻子にやっと、シオクリ、出来ます、奥さん、と、派手に泣く ? に圧倒され
[ 金井美恵子『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』 – 「書くことのない作家は「猫」以外になにで「しのぐ」か」 p.49 より]
なんつか、アレな感じ。まぁ、事実を粉飾なく書いているのだろうとは思うけど。
それで思い出したのが、二〇〇〇年問題として騒がれた、あり得るかもしれない一九九九年一二月三十一日の停電やガスの供給停止にそなえて、ローソクはもとより、炭と七輪を買ったという女性のことで(中略)大真面目に、どうなるかわからないから、七輪と炭を用意しておいたほうがいいですよ、と言うので、おかしさのあまり、七輪で炭をどうやって起こすか知ってますか、と聞くと、それはわからないから、ガス・レンジに載せて炭を起こす道具も買っておいた、と答えたから、私としては、つい、からかう気持ちになって、でもガスが止まってしまうので用意したんでしょう、止まったら、どうやって? と言うと、彼女は、ハタと本気で困惑して、そうだ、そしたらどうしたらいいんだろう、と落ち込んでしまうのだった。日付の変わる瞬間にコンピューターの誤作動が起こるかもしれないと言われているのだから、そんなに心配ならば、十二月三十一日中に炭を起こしておけばいいだけのことだ、と言ってなぐさめてやるまで、彼女は青ざめて唇をかんでいるのだった。
[ 金井美恵子『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』 – 「炭」 p.93 より]
面白いけど、これはネタだろう、と思った。
あと、「電脳文化と低脳売文業 – 「漢字を救え!」キャンペーンをめぐって」「東大六万四千漢字プロジェクト発表会についての報告」」を読んで、そういう問題がかつてあれこれいわれてたことがあったことを思い出した。当時は現在に増して、コンピュータなんて触ったこともなかったのでなんのことだかまったくわからなかったので深くは立ち入らなかったものの、この金井さんの文章(「電脳文化と?」)や小池和夫『漢字問題と文字コード』により信憑性を感じていたのだけど、いまその辺について調べたら僕はどう考えるだろうか。