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大塚英志・著『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』

『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』

大塚英志・著『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』を読みました。例によって特に感想もないのですが、気になったところをちと引用してみます。

七六年に創刊されたサブカルチャー雑誌『out』(みのり書房)はこの「ヤマト」の特集を機にアニメ情報誌化へと向かい、七八年の『アニメージュ』(徳間書店)創刊のきっかけとなるのだが、同誌のアニメ記事の特徴は今でいう「謎本」的な作りであった。例えば、敵役キャラクターのデスラーの肌の色が途中から青色に変わるのは何故か。それはむろん、制作上のミスなり何らかの都合によるものにすぎないのだが、こういった矛盾や穴を捜していく

そこには受け手の側の、アニメーションの虚構世界もまた現実と同じ原理原則で構成されていなくてはならないという視線が前提として存在する。現実と同じ原理原則から成り立つ世界であるからこそ、例えばキャラクターの肌の色が変わるという事態は矛盾として受けとめられる。それらは作り手の都合や勘違いに過ぎないわけだが、一度描かれてしまった物語はすべて「現実」と同等の構造を持つとみなされ、矛盾や破綻もまた作品世界の「現実」に従って解釈されなくてはならない。

(中略)

このように受け手は作品の物語の背後に現実と同じ統辞法、秩序から成り立つ「世界」の存在を見て取る。だが送り手の意識は、各エピソード、各場面の中で完結し、つまり表層に描かれたもの以上のものを未だ構築してはいない。こういう受け手の側の過剰な読みこみこそが「おたく」の最大の特徴である。虚構の世界を現実世界と同等の統辞で成り立っているのだとみなす思考と、それを出発点とする想像力のあり方こそが「おたく」表現の本質である。

[大塚英志・著『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』 p.213-4 より]

なるほど面白いお話だと思ったけど、んでもまぁ、それ以前の文芸評論等でも同じような穿った見方はあったんじゃないかなぁ、それとはどう違うのだろう…とも思ったり。いわゆる私小説的な小説を虚構世界もまた現実と同じ原理原則で構成されていなくてはならないという前提で以て意味なく深く読み込んでみたり、とか。似たようなことは岡田斗司夫・著『オタク学入門』を読んだ時も感じたのだけど、茶碗のなんかしらん微妙に欠けた風情がいいのよ?とかゆって悦に入る粋人みたいな存在として描かれた「オタク」をああも持ち上げるその煽りっぷりが見事で「あー、よくわかんないけど、オタクってのはすごいひとたちなのかも…」と思わされたりもしたのだけど、上に引用した箇所等を読むと、まぁどうでもいいやっつーか、少なくともそんなに格好のよいものではないなぁと思った。もちろん、大塚さんはそれがかっこいいとかかっこ悪いとかそういう話を書いてるわけではないですが。

無論、こういった問い(引用者註:「あなたは誰」「私は誰」という問い)そのものはきわめて古典的なものだ。ただ「エヴァンゲリオン」に特徴的なのは、それを現実的な社会かと一切、切断された領域で成立させようとしている点であることは、たった今述べた。だが例えば埴谷雄高の『死霊』のように、ただボートの上で形而上学的な会話をし続ける物語もあるではないか、それとどう異なるのか、という指摘は可能だ。だが、そういった哲学的問答を可能にする前提となる「哲学」や「文学」抜きに、あるいはそれが不在のまま問いのみが突き詰められていく、というのが「エヴァンゲリオン」敵形而上学の特徴なのだ。形而上学的な技術の蓄積がないままこれを行えばメンタルトレーニング的な人格改造セミナーに行き着く。それは鶴見済の『完全自殺マニュアル』にも共有される思想だが、形而上学的な技術を欠いた(あるいは放棄した)形而上学的問いの解決というのが、テレビアニメ版「エヴァンゲリオン」、人格改造セミナー、鶴見済といった九〇年代の「哲学」の特徴である。

[大塚英志・著『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』 p.415 より]

これはなんというかアイタタターという感じ? ぶはー。いや、でもまぁ、浅田彰さんがオウムを「くだんね」つって切って捨てたり、宮台さんが「教養」などと言い出したり、いろいろ揺り戻しというか、そういったアレはあったのよね。んで「終わりなき日常を生きろ」なんつってもそうはいかないよねなどとぶつぶつつぶやきながら哲学というか社会学とかしちゃったりするんだけど、哲学的問答を可能にする前提となる「哲学」や「文学」抜きに、あるいはそれが不在のまま問いのみが突き詰められていっちゃった結果…と、危うく問わず語りの自分節を語るところだったよ! あぶねーとこだった! というスリリングな読書体験を得られるこの本はマジでオススメです! と、やけっぱちテンションでしめる。

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