エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド』を、版元のオライリー・ジャパンよりいただきました。ありがとうございます。

エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド

エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド

  • 作者: Camille Fournier,及川卓也(まえがき),武舎広幸,武舎るみ
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2018/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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結論からいうと、インターネットに関わるソフトウェアエンジニアの方は、ぜひ読まれるとよいと思います。マネジメントへのキャリアパスを考えている人にはおおいに参考になるだろうし、コードをバリバリ書いていきたいという方にとってもエンジニア近辺の登場人物の特性を知っておくことは損にはならないでしょう。

ソフトウェアエンジニアとしてどういうキャリアを築いていくかということに関しては、わたくしが一番好きなものでいうと『Coders at Work プログラミングの技をめぐる探求』などがあったりします。歴史に名を残す凄腕プログラマが来し方を語るインタビューが満載で、読んでいて彼我の差にひたすらクラクラするものの、「自分もやらねば!」と奮起させられる本でもあります。一方で、エンジニアがマネジメントラインに進むという選択肢については、なかなか同じように向き合える本は見つからない状況が続いていました。

おそらくは、インターネット産業が興って20年以上経った近年、日本と海外とを分かたず徐々に産業が成熟化してきて、ソフトウェアエンジニアという専門職の職能が確立していくとともに影響力の拡大が進み、マネジメントラインの必要性が常識化してきたのでしょう。それが証拠に、本書が出版されたわけですし、少し前には名著『エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング』も日本では刊行されています。たとえば自動車業界ではエンジニアが普通に事業部長のような存在になっていくわけですし、インターネット産業もそうなって当然です。

本書は、エンジニアが、マネジメントラインの典型的なキャリアラダーをあがっていく過程において、知っておいたほうがいいことについて、レイヤごとに詳述しています。また、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)の例などもテックリードや技術部長について紹介されており、とても参考になりました。実際にその役に就いているひとが読むと、より切実な感覚とともに読めるのではないでしょうか。そんなこと、(今のところは)誰も教えられませんしね。

そういう意味では、自分自身はCTOという役を担っているので、最後の8章「経営幹部」のあたりを興味深く読みました。この本は、「CTOとは、その会社が現在の成長段階で必要としている戦略的技術系幹部」(p.217)という定義を述べています。これはけっこう含みの深い定義で、最初見たときはピンとこなかったのですが、もう一度考えてみて、まさにその通りだなと思っています。どういうことでしょうか。

ポイントは「現在の成長段階で」というところ。つまり、会社のステージに応じてどういう役割がCTOに求められるかは大きく変わってくるということです。そんなの当たり前といえば当たり前なのですが、創業間もないスタートアップ、エンジニアが100人規模の組織、全社員が数千〜数万の大企業それぞれのCTOに何が求められるかを考えると、実践的には難しい話ではあります。

また、その8章における「経営幹部」というのが本文中で「(技術担当の)」という限定的意味を付されていることにも注意が必要です。わたくしの読みでは、つまり、技術担当の経営幹部は、成長段階に応じて「技術担当の」を外した役へとラダーをさらに登るべきだということになります。そこまでいくと本書のスコープを外れてしまうわけですが、ちょっと掘ってみましょう。

本書を読むと、エンジニアリングマネジメントのキャリアパスについて知ることは十分にできますし、また、それぞれの章は、自分がまさにその役を担っているならば、虚心坦懐にひとつひとつ真似してしかるべき、優れたアドバイスだと思います。一方で、クルト・レヴィンが「ひとから成り立つシステムを理解する最良の方法は、それを変えてみることだ」というように、与えられたキャリアラダーをどう登るかに腐心するような状況には、いまの日本のインターネット産業はありません。どうすればよいのでしょうか。

先述した『エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング』は、主観的なキャリアプランがどうあれ、マネジメントの役割を担うことに「なってしまった」人々への救いの書物、一筋の光明であるわけですが、その本でわたくしの観点からは最重要に思える5章「技術組織の力学とアーキテクチャ」にマクロ組織論の、とりわけコースの定理のもたらす広い射程に思いを致しつつ、実際に組織を変えてみようとすることこそが、エンジニアリングに限らず、マネジメント全般において成長するための効率的なステップであると考えます。キャリアプランでいえば、登るべきラダーそのものを自分で作ることです。

本書でキャリアパスのありかたのひとつを学んだ後には、自分自身のおかれている状況において、それぞれであるべきキャリアパスや、そもそも組織構造そのものに手を付け、よりよい方向に変化させていってほしいと思います。そのための、足がかりになる本として間違いなく良い本です。