本記事では、パフォーマンスを高める目的でよい習慣をみにつけるために必要な考え方、ツールを用いた実践について述べる。

良い習慣が限られた時間におけるパフォーマンスを高める

「人間は習慣の生き物である(Humans are creatures of habit)」とは、アメリカのプラグマティズム哲学者であるジョン・デューイの言葉だという。出典にあたって確かめたわけではないので、そのフレーズのいわれている文脈はわからないため誤解している可能性は否めないものの、習慣について語る文章では頻繁に引かれる言葉であるため、多くの人々の心を捉え続けていることは確かだろう。経験的にも、悪い習慣によってこれまで無駄にしてきた様々なことが思い浮かぶし、良い習慣を身につけることが高いパフォーマンスにつながることは普通にありそうなことだ。

また、時間は誰にとっても平等であるみたいなこともよくいわれる。長い目で見れば早死したり長生きしたりするわけなので、人生スパンで平等ということはあり得ないだろうが、数年スパンで考えるとそのように認識してもそう間違いではなかろう。とすると、平等に流れる時間においてこれまでよりもパフォーマンスを高めるためには、(1)時間の内訳を変えること、(2)能力を高めることで時間効率を高めること、のふたつしか選択肢がない。(1)の方策はつまり、他のことを犠牲にしてがんばるということになる。これは採り得ない選択肢であるため、(2)を選ぶしかない。

上記した人口に膾炙したフレーズを敷衍して述べると、すなわち、限られた時間においてパフォーマンスを高めるには、良い習慣を身につけることによって時間効率を高めることで、実質的な能力向上を実現する必要があるということになろう。では、どうしたらそのようなことが可能なのか?

Habitifyという習慣化支援アプリの簡単な紹介

Habitifyというアプリがある。ひとことでいうと、習慣を継続することを支援してくれるアプリである。プラットフォームとして、iPhone、Android、MacおよびWebをサポートしている。たいていの人はスマートフォンで利用するだろうから、使用する環境として問題はないだろう。習慣化を支援するアプリは類例が多数あるが、それらの話や比較に基づくレビューはここでは行わない。これまでいろんなものを使ってきたが、そのどれについても挫折を繰り返してきた。Habitifyのみが、いまこうして紹介を書くぐらいには、アプリの利用そのものが習慣化した初めての例であると述べるに留めておく。

わたくしは、このアプリを使い始めて初めて、習慣を継続するということができるようになってきていると感じている。なぜそういうことが起こったのか?確かに、Habitifyは非常によくできたアプリだと思う。UIはきれいだし、インタラクションは小気味よい。サポートは(英語ではあるものの)非常に親切で、エンゲージメントが明らかに上がったのを自分でも感じるし、課金体系としてサブスクリプション型を基本的にはとっているものの、4,800円払えばすべての機能を払い切りで使うことができるのもよいところだ。しかし、アプリの出来そのものについても、この記事ではこれ以上述べることをしない。Habitifyを使うのを勧めはするが、重要なのは習慣をみにつける考え方とツールの使い方にあるからだ。

多くの人々が習慣をどうしても継続できない理由

習慣とはなんだろうか?たとえば、英語を流暢に話せるようになりたいひとは、目標を達成するためにやるべきことを英会話のレッスンに通うだとか英語学習のプロセスを単語を憶えるだとかに分解し、それらを習慣化するべきタスクとして認識し、継続を試みるだろう。そのこと自体に、問題があるようには思えないし、習慣としたいタスクを計画している時は、いまよりもパフォーマンスの高まった自分を想像して希望に燃え、きっと今度こそは継続するという決意を高める。しかし、たいていの場合、それらのタスクが習慣として継続的にこなされることはない。いったいなぜなのだろうか?

ひとは常に選択の岐路に立っている。朝、起きなければならないという気持ちと、もう少し寝ていたいという気持ちが葛藤し、そのいずれかを選択する。そして、多くの場合、望ましくない選択肢、すなわち二度寝することを選んでしまう。習慣としたいタスクを実行しようという局面でも同じことが起こっている。「英単語を30個憶える」というタスクを目の前にして、なんかお腹が空いてきたからご飯を食べてからにしようとか、Twitterが気になってしまってスマフォを眺めて時間が経過してしまうとか、そういうことの果てに、タスクを実行できずに一日が終わるのだ。

選択肢があるということが問題の根源である。習慣にしたいタスクとそれ以外の行動という選択肢があり、無意識のうちにそれらを比較考量し、易きに流れてしまう。しかし、そのこと自体は人間の本性に基づく行動であり、容易に変えることはできない。にも関わらず、できもしないのにひとは怠惰な自分を変えなければならないと、誤った課題の解決に取り組んでしまう。繰り返すが、問題は選択肢の存在そのものであり、怠惰な方向に流される自分ではない。すなわち、選択肢の存在、発生そのものにアプローチしていかなければ、習慣が身につくことはない。

習慣化を阻害する「選択肢」をなくすための思考放棄

では、どうやって選択肢自体をなくせるのだろうか?たとえば最近流行りのコーチ付きトレーニングを行なうサービスも、選択肢をなくす方法のひとつである。すなわち、契約したトレーナーが毎日のように事細かに激詰めすることで、習慣の継続以外のことをする選択肢をできるだけ減らすというサービスを提供しているわけだ。しかし、えてしてそういうサービスには多くのお金が必要である。そのため、お金が尽きたらまた、元の木阿弥となることも多いと聞く。サステナブルな習慣継続のためにはどうしたらよいのだろうか?

落合陽一氏が、かつてこういう内容のことを書いていた。いわく、自分のGoogleカレンダーの予定は、周囲の人々に登録権限を明け渡しているため、自分でも知らない間にどんどん追加されていき、彼はただひたすらカレンダーの予定を上からこなしていくだけなのだと。これはつまり、この記事における文脈でいうと、どのような予定を立て、こなしていくべきかという選択肢をなくしていくということである。そして、登録されている予定をただ上からこなしていくためには、選択肢をなくし、かつ、思考放棄をする必要がある。行動の契機を、完全に外部に明け渡してしまうというわけだ。

我々もまた、彼の方法を取り入れ、考えることをやめよう。まず、やるべきことをリストアップしていくこと。そして、ただ上からひたすらにそれらのタスクをこなしていくこと。ポイントは、ツールの言いなりになるということである。下手の考え休むに似たり。ありもしない選択肢を幻視し、あたかもそれらを比較考量し主体的に考えているつもりで、ひとは誤った道を選んでいく。そして、いつまでたっても習慣は継続しないし、パフォーマンスは低空飛行だ。どうせ無駄なのだから、考えることをやめよう。

思考放棄を支援するツールとしてのHabitify

では、上記の考えに基づいて、具体的にHabitifyをどのように使っているのかを見ていくことにする。以下が、わたくしのHabitifyに登録しているタスクリストである(左から右へという順番で画像を配列している)。登録されている内容、および、順番に注意を払ってしばらく眺めていただきたい。

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一見して気づくのは、「起床する」というタスクがあることだろう。似たようなものとして、「帰宅する」というのもある。このような、習慣化するまでもなく毎日行うに決まっている項目を入れるのはなぜか?これはいわゆる「アンカリング」の一種である。Habitifyでもなんでもこの手のツールは、そもそもツールを使うこと自体を習慣化する必要があるし、多くの人々は、英単語を憶えるとかいう以前に、ツールを使わなくなる。そのため、単に起きるだけでタスクを消化できるという状況にすることで、目覚めとともに「今日も一日、ツールのいいなりになって思考放棄して生きていくぞ」というマインドセットを行なうわけである。これは非常に重要なプラクティスである。

タスクの順番にも意味がある。思考を放棄するためには、ツールのいいなりになる必要があると述べた。そのためには、手にスマフォを持ち、Habitifyを見ながらただいいなりになって行動する必要がある。そのため、起きてから寝るまでの行動を順番にリスト化することで、上から順番にタスクをただこなしていくだけという状態を作る必要がある。そうしないと、またぞろ「選択肢」というやつが現れてくる。選択肢が出てきたが最後、我々は易きに流れてしまう。考える余地がないほどに、やるべきことで埋めていき、上から順番にこなすだけの一日を送ろう。そのためには順番が重要である。

その他に気づいたことはあるだろうか?Habitifyで習慣化しようといっているわりに、「〜日連続」という記載の「〜日」の日数が少ないことに気づいた方もおられるかもしれない。それもまた重要なポイントである。習慣の継続をさまたげるのは、完全主義である。習慣化を支援するアプリにはだいたいこの「〜日連続」という機能がついており、これを絶やさないために行動するという動機づけの仕組みが組み込まれている。さらには、Habitifyもそうだが、連続した日数がカレンダーなりグラフなりで一覧できるようになってすらいる。無視すべき機能である。どうせこんだけの量を詰め込んでいたら、全部こなすことなんて不可能である。完全主義の裏返しで、習慣の継続が完全でないといってやめてしまうぐらいなら、途切れたって無視すればよい。

タスクの表現にもひと工夫をこらしている。たとえば語学系タスクについて、「フランス語を聴く」、「英語を聴く」、「フランス語教材を読む」などがあるが、それらはどれも定量目標を記載していない。よくありがちなアンチパターンとして、「英単語を30個憶える」のように、定量目標を設定してしまうということがある。そして、誤った完全主義によって30個覚えなければだめだと自分を鼓舞するも、そんなことはできるはずもない自分を責め苛み、習慣の継続が終わる。ひとつもやらないぐらいなら、10個でも3個でも、なんなら辞書を一度引くだけでもマシである。そのため、タスクの達成目標をあえて定量化せずに書いている。これなら、「フランス語を聴く」はちょっとでも聴いたら達成である。なにもやらないより、ほんの少しでもやったらOKというハードルの低さが継続のポイントである。

このように、できるだけ多くのタスクを一日の時間的経過にそって順番にならべ、思考放棄してただひたすら上からこなしていくことで、習慣を継続していっているわけだ。しかし、完全主義は敵である。できなくたってかまわない。また明日があるし、習慣というにはほんの少しの実践であったって何もやらないよりはマシである。ハードルを下げよう。こっちは思考放棄しているのだ。高いハードルなんてこせるわけがない。考えることなくできるレベルにするべきである。また、リマインダー機能もついているのだが、使わない。なぜなら、上から順番にこなしていくだけなので、リマインドされる必要がないからである。リマインドされる必要があるということは、選択肢が存在しているということである。何度も行っているように、その時点で根本問題が解決されていない。

おわりに

本記事をまとめよう。

  • 限られた時間でパフォーマンスを高めるためには、習慣化による時間効率の改善がもたらす能力向上が必要である
  • 根本的な問題は、習慣を継続できない弱い自分ではなく、選択肢が存在することである
  • 思考を放棄してツールのいいなりになることで、選択肢の存在・発生を根本的に排除する
  • 習慣化したいタスクをツールにどんどん登録し、ただ上から考えることなくこなしていく状況を作る
  • 習慣支援ツールの使用を習慣化するために、起きたらすぐタスクを消化できるよう「起床する」というタスクを入れる
  • ただ上から順番にこなせばいい状態にするために、一日の流れを習慣化するべきタスクとして登録していく
  • 「〜日連続」なんて気にしないで、できなかったらできなかったで次の日にやればいいと考える
  • タスクの達成目標をあえて定量化しないことで、誤った完全主義の発動を抑制し、少しでも実行できるようにする
  • リマインダーを必要とする時点で選択肢が存在しているということなので、リマインダーを使わない

他にも工夫しているポイントはいろいろあったりするのだが、それはまた次の機会に紹介することにしよう。