Category書評

『みんなのGo言語 – 現場で使える実践テクニック』の紹介

著者のおひとり、 @songmu さんより『みんなのGo言語 – 現場で使える実践テクニック』をいただきました。ありがとうございます。

みんなのGo言語[現場で使える実践テクニック]

みんなのGo言語[現場で使える実践テクニック]

  • 作者: 松木雅幸,mattn,藤原俊一郎,中島大一,牧大輔,鈴木健太
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2016/09/09
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログを見る

今年に入って『プログラミング言語Go (ADDISON-WESLEY PROFESSIONAL COMPUTING SERIES)』が翻訳されたように、日本語で読めるGo言語についての書籍もずいぶん充実してきたようです。Go言語の良さとは、「早い人ならば1日、遅くとも数日で言語仕様の全容を理解できる」*1ほどにシンプルな仕様にもあることは、『みんなのGo言語 – 現場で使える実践テクニック』(以下、本書)でも「はじめに」において述べられるところです。実際、他の言語にある程度通暁していれば、すぐにでもなにかしら使い始めることができるでしょう。

一方で、どの言語でも事情は似たようなものであると思われますが、Goにおいても例にもれず、言語そのものの仕様について知ること以上に、効率的な開発環境を使いこなしたり、言語特有のプラクティスやイディオムを身につけたり、あるいは、言語によらない共通のプログラミングそのものの知見を得、使いこなしていくことが重要であったりします。文法をひととおりみにつけたその先に、本書を通底して流れている、「チーム開発」(第1章)にフィットし、「どの環境でも同じように動作」(第2章)する、「実用的なアプリケーション」(第3章)が作れるのでしょう。

僕自身は、1.0が出るか出ないかぐらいの頃(?)だったかにひととおり文法を勉強してみて、その後、簡単なツールを書いてみたり、なにかあれば積極的にGoを使って小さなプログラムを書いたりはしてきましたが、腰を据えて、継続的に大きなアプリケーションに取り組むということがなかなかできてなかったため、上記したような、日々新しいものが追加されていく「実用的な」知見に疎くなっていました。そんなこともあって、著者陣の日々の経験から生まれた、実践的なTipsがつまったこの本は、とても勉強になりました。

go xxx のような便利ツール群などにも、発見がありました。たとえば、第1章で紹介されているgo lintgo vetなど、「そういえば使ってなかったな……、使うようにしよう」と反省したり、第6章「Goのテストに関するツールセット」で紹介されている go test -run TestXXX としてTestXXX だけ実行できることを教えてもらったり。第4章「コマンドラインツールを作る」では、採用候補のライブラリを紹介した上で、自分でとりまわしよく、かつ、しっかりとCLIアプリケーションを書く方法が丁寧に紹介されていて、今後、また参照することになるでしょう。

第3章「実用的なアプリケーションを作るために」と第5章「The Dark Art Of Reflection」は、個人的に、本書の白眉というべき面白い章でした。前者は、著者が実際に作ったプロダクトでの経験から、I/Oのバッファリング、タイムアウト、シグナルハンドリングのような、システムプログラミングをする上で大事な内容について述べられています。後者は、GoのReflectionってこんなこともできるんだーとひたすら驚きながら読みました(パフォーマンス上の懸念もしっかり述べられています)。

そんなわけで、Goについてひととおりの文法的事項はおぼえた(つもりだ)けど、実用的なツールやアプリケーションを書いていくにはどうしたら?という方が読むと、得るところがとても多いんじゃないかと思いました。オススメ。

みんなのGo言語[現場で使える実践テクニック]

みんなのGo言語[現場で使える実践テクニック]

  • 作者: 松木雅幸,mattn,藤原俊一郎,中島大一,牧大輔,鈴木健太
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2016/09/09
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログを見る

*1:『みんなのGo言語 – 現場で使える実践テクニック』p.3

深町秋生・著『果てしなき渇き』

果てしなき渇き (宝島社文庫)

果てしなき渇き (宝島社文庫)

その著者の名前が気になってはいたものの(はてなダイアリユーザでもあるし「深町秋生の新人日記」)、タイミングが合わなくてなんとなく読み逃していたのだったが、『果てしなき渇き』が文庫化されているのを書店で見つけ、ちょうど本を読む流れに穴が空いてもいた折り、うまいことすっぽり読み始めることができたのだが、読み始めたら最後、ひたすら主人公および物語のハイテンションな暴走ぶりにあてられて、一気に読了してしまった。
元刑事の、いまは警備員をやっているいわくありげな中年男が、冒頭、いきなりぶち当たる殺人事件の凄惨ぶりが放つインパクトにのっけから心をつかまれるのだが、離婚した元妻からかかってきた電話により始まる、失踪した娘探しの道程は、若い女の子と白い結晶というからみの、それはそれでまぁアリなのかな的展開をみせるのかと思いきや、街のギャング、ヤクザ、県警、警察の内偵、フィクサー的実業家が入り乱れる盛り上がりぶり、そして、追跡の過程で明らかになっていく、娘の知られざる真の姿がかなりと迫真的で、先に述べた通り、巻を置くこと能わざる展開となる。
また、主人公の魅力的とは到底いい難いキャラクタ造形も、異彩を放ちまくって、読む者の心を離さない。親とあれば多かれ少なかれそうであるのかもしれないけれど、元刑事という性質に輪をかけて、ほとんど気が違っているような偏執狂ぶり(刑事を辞職した原因が、妻の浮気相手を半殺しにしたことだとか、娘の友人に対する聴取が、話をうまく訊きだそうという配慮とはまるで無縁の、悪魔じみたやりくちであること等)が、睡眠不足と加えられた暴力とで朦朧とした身体に白いものをぶちこんで元気溌剌、それまで死にそうになっていたのが一転、通りがかった小学生に対してにこやかに手を振っちゃったりするコミカルな一面も見せつつ、一段とパワーアップしてあたり構わず突入していくブッコミ野郎ぶりに、思わず熱いものがわき上がるのを禁じ得ない。
大人数が入り乱れての情報戦、凄惨な描写、絶望的な物語という点で、かつて同じように熱中した馳星周の『不夜城』を始めとする初期ノワール群を思い出すのだが、そのようなジャンルには全くもって通じていないのだから、勝手な類推はやめにしよう。それぞれに一途な思いが、一方では過剰なまでの熱さで、また一方では非情な冷酷さでもって暴走した結果、このようなひたすら熱中的な物語が産み出されたそのことに、ただただ呆然とするばかりだ。同著者による『ヒステリック・サバイバー』も、「筋肉バカvsオタク」との帯文の煽りがやや不穏な印象をもたらすものの、是非読んでみたいと思った。というか、いま、注文した。

ヒステリック・サバイバー

ヒステリック・サバイバー

猪瀬直樹・著『作家の誕生』

作家の誕生 (朝日新書48)

作家の誕生 (朝日新書48)

次期東京都副都知事に就任することになった猪瀬直樹氏による『作家の誕生』を読んだ。同名タイトルのNHK人間講座のテキストを加筆訂正したものということもあり平明な記述で、また、著者の文芸三部作(『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』『マガジン青春譜 川端康成大宅壮一』)を機会がなくて読んでいなかったので、初見のエピソードがたくさんあり、非常に楽しめた。
タイトルにある「誕生」は、現代思想的な文脈でいう「作家の死」などという言葉とは全く関係なく、端的に、「作家」が経済的に職業として成り立つようになった過程を踏まえて語られている。明治の終わり頃には、そもそもマーケットが非常に狭かったため、作家専業では食えなかった。それが、雑誌や新聞の隆盛によるマーケットの拡大や、また、そのことがもたらした、本書では現在のネット文化と対比して語られる雑誌への投稿文化に見られる受容層の多様化により、作家が職業として経済的に成り立ちうるようになったわけだ。
本書は、作家が「誕生」する過程において起きた諸現象、つまり、醜聞の社会現象化、夏目漱石朝日新聞社員としての作家活動、淡い恋に憧れを抱く一介の投稿少年としての川端康成、瀧田樗陰ら名物編集者が作っていった雑誌文化、菊池寛の生活者としての視点と商才溢れる活動ぶり、島田清次郎賀川豊彦といった作家による大ベストセラー小説の出現、円本による多くの作家たちのいまでは信じがたいほどの経済的成功等、できるだけ文学的な伝記性を廃しつつ、徹底して、経済的な面から作家という職業の歴史を綴っている。もちろん、他の著者に見られるような文学コミュニケーションの歴史を追う記述も面白いのだけど、個人的には、美しいことばかり書いてたって、それでどうやって生活するんだよ?という気分が強いので、本書のようなアプローチは願ったりかなったりだ。
しかしだからこそ、太宰治三島由紀夫をそれぞれ扱った最終3章はやや退屈に感じた。太宰については、それぞれのエピソードは面白くはあるが、作家と経済という点では、彼は津軽の富豪の息子だったのであまり切実さは感じられないのだし、三島の章にいたっては、大蔵省を辞める辞めないのあたりは面白かったものの、かなり文学論の趣が強く、個人的にはいま読みたい文章ではなかった。
本書のようなアプローチを取る本としては、日垣隆・著『売文生活』も面白い本だった。是非、合わせて読まれたい。

売文生活 (ちくま新書)

売文生活 (ちくま新書)

© 2020 栗林健太郎

Theme by Anders NorénUp ↑